AAMAS2015: Maor Tal's "A Study of Human Behavior in Online Voting"

論文について


Tal, Maor, Reshef Meir, and Ya'akov Kobi Gal. "A study of human behavior in online voting." Proceedings of the 2015 International Conference on Autonomous Agents and Multiagent Systems. International Foundation for Autonomous Agents and Multiagent Systems, 2015.

AAMAS (International Conference on Autonomous Agents and Multiagent Systems): 自律エージェントとマルチエージェントシステムに関する最難関国際会議

論文の内容


論文の概要

  • 目的: 複数のルール下で、様々なオンライン投票における人々の投票行動に関する包括的な研究を提供すること。
  • 問い: オンライン上における多数決投票において、どのような投票戦略がされ、戦略に影響する環境要因は何か?

投票(Volting)とは

投票の重要性

 投票はグループの意思決定のための選好集約行為の一つであり、 多数代表制(Plurality voting)は、多数の投票者の選好を集計するための方法として最も一般的に使われる。 また、オンライン投票は以下の点で重要であるとされている。

  • 人々の選好や投票行動の集約すための、コンピュータ化したシステムの利用増加に反映できる
  • 文脈による影響を抽象化した制御環境を構築できる
  • クラウドソーシングを用いて大規模な実験を実施できる

投票に関する既存研究

 既存研究において、理論研究(Theoretical work)と実験研究(Experimental work)の2種類が存在する。

  • 理論研究(Theoretical work)
    完全に独立しているわけでないが、以下のようなモデルが存在する。
    • ゲーム理論モデル: 効用と合理性に基づく投票均衡概念を導出する
      • Myerson and Weber model
      • trembling hand equilibrium (摂動完全均衡)
      • strong equilibrium (強均衡)
      • subgame-perfect equilibrium (部分ゲーム完全均衡)
    • 決定理論モデル: 単一投票者が直面する戦略的決定と適用する経験則に焦点を当てる
      • simple best-response and other myopic heuristics
      • complex decision diagrams
  • 実験研究(Experimental work)
     本研究のように、実験を用いて分析を行う。

 本研究は、反復的な設定のもと人間の投票者がMBR* もしくは他の経験則を取る状態に関する研究である。
Myopic best-response (MBR, 近視的な最適反応)はナッシュ均衡に収束することが証明されている

人々の投票行動とは

 政治学、経済学、ゲーム理論、計算的社会選択(computational social choice)などにおいて 人々は正直に投票を行わない とされるが、人々がとる戦略と環境が戦略に及ぼす影響は明らかでない。
※ 正直な投票とは、自身にとって一番好まれる投票先に投票すること。

 人々の投票行動を理解するためには、

  • 人々の根底にある選好に関する知識
  • 人々の投票行動に関する知識

を必要とするが、実験における設定と戦略的な投票を双方含んだ選好プロファイルが公開されていない。
※ 参考: {PrefLib}: A Library for Preferences

  • どのような投票戦略がされ、投票戦略に影響を及ぼす環境要因は何なのか?
  • 投票者がどのように投票すべきか?

以上のような点で研究が必要とされる

 本研究における目標は、投票設定と戦略的な投票行動のギャップを埋めること。 本研究により、以下の利点がある。

  • 投票システムより、人々の投票支援に用いることができる。
  • MAS(Multi-Agent Systems)におけるエージェントの設計を容易にすることができる。

本研究における実験について

 2種類の投票ゲームを用いた実証実験を実施し、投票者の選好と投票行動の間の関係性を分析する。

  • Poll Voting: 一回の投票機会のあるシナリオ
    • 投票者は、他人の投票による事前投票結果を参照することができる
      f:id:farma_11:20171222111910p:plain
      Poll Votingのゲーム画面(本論文から引用)
  • Iterative Voting: 結果が出るまで自由に投票先を変えられるシナリオ
    • 投票者は、他の投票者の現在の投票状況を把握できる
    • 最終的な投票がいつになり、投票結果がどうなるのかは把握できない
      f:id:farma_11:20171222111915p:plain
      Fig 2. Iterative Votingのゲーム画面(本論文から引用)

 どちらの設定でも、

  • 投票者にはプライベート情報である選好が割り当てられる
    → 選好には候補セットに対して優先順位が与えられている
  • 利用可能な情報と、投票者の投票行動を記録する
    → 投票時の情報を変化による、投票行動の変化を確認する

本研究から得られる知見

全体に対する知見

  • どちらのゲームにも常識的なデフォルト行動がある
    • Poll voting : 最も好ましい候補に投票する
    • Iterative voting : 同じ候補に投票し続ける
  • 戦略的な投票行動では、MBR(近視眼的最適反応)をとる
    • Poll voting : あまり好ましく無いがより人気な候補に妥協する
    • Iterative voting : 最終ラウンドの場合はとにかく利益を最大化できる候補に投票を変える
  • 投票行動の種類ごとに3つにグループ分け可能
    • A: ランダムに投票(少数, 予測困難)
    • B: 常に最も好ましい候補者に投票(予測可能)
    • C: 戦略的な投票行動をとる集団(最大多数, 行動が複雑)

グループC: 戦略的な投票行動をとる集団に対する知見

  • Poll voting
    • 65-70%の投票者は最も好ましい候補が最下位の場合、2番目に好ましい候補に投票する
    • 最も好ましい候補が2位だった場合、少数の投票者は調査でトップの候補に投票する
  • Iterative voting
    • 投票先がMBRと同じとき、グループCの90%は投票を変えない。
    • MBRに基づいて投票先を変更した方が良い場合
      • グループCの35%は投票を変えない.
      • グループCの35%以外は、MBRに基づき投票先を変更する

どんな投票行動がいいのか

 情報や選好を投票行動に直接変形するような関数はないが、単純なヒューリスティクスやパターンは存在する。

  • 投票者の平均獲得報酬は最初のポジションとグループによって決まる
  • LoserよりもWinnerのほうが平均獲得報酬は高い
  • グループA(ランダム)は報酬が低い
  • グループBとCはほぼ同じ報酬を得る
    → 常に正直であるのとMBRに従うのではどちらがいいかは明言できない

本論文を読んだ感想


 投票はグループの意思決定のための選好集約行為であるため、人々が自身の選好に従って正直に投票することが望まれる。 一方で、正直に投票せずに戦略的に投票することは、自身の効用を高めるという点で合理的である。 これは、単なるアンケート調査とは異なり、投票の結果が投票者に対して影響を及ぼすという点が大きく感じた。